少し歩けば海にでるから、この町には川が幾つかあって、日暮れ時や、休日には、人々が何気なく川に集ってくる。犬を散歩させたり、腰を下ろして休んだり、ぼんやり川を見ていたり。少しの間でいろんな姿がある。川沿いのアトリエの窓を少し開けておくと、そんな人たちの話し声が、なんとなく聞こえてくる。描きはじめの油彩に気を取られているからそれらの声はいつも風のようにどこかへ消えてしまうが、同じビルのちょうど私の部屋の下には、曜日によってこどものアート教室が開かれていて、こども達の声は一定時間下の部屋から響いてくる。こどもたちを教えていた懐かしさもあり、明るい声に元気をもらう。ある時、ポストへ投函しに近所をぶらぶらと歩き帰ってくる途中で、自転車ですれ違った人がニコッと微笑んで挨拶をしてくれた。階下のアート教室の方だ。滞在間もない見知らぬ町で、通りすがりに挨拶をされ、こわばった心身がほころんだ気がした。夕暮れに、橋の上からレンズを向けたら、シャッターを切るとともにボートが現れた。なんか、みんな、自由でいい。