2013 Shibu-kyo Ph:5

201304132213000

 

「転」

  事象は転じる。現在は永遠に無常である。これは自然界に横たわる普遍のルールだ。2011年より始めたこのインスタレーションで私は、いのちの巡りを表現しているが、その3回目であるテーマは転と定めた。小さな風船を畳一枚分の白い塩ビ板の上に静止させ、板の下から照明をあて、風船自体が発光しているかのように展示した。薄暗く今までで一番小さな部屋の中央に設置し、前回、前々回と参画者が触れ、戯れることによって成り立たせてきた作品展開をやめた。参画者は周りを歩いたり座ったりしてただ光る魂のような風船を見るしかない。私は境界をつくった。
  境界は隔てる。逝くものと残されたものを隔てる。時間は止めることができず、事象も永遠に留まることは無い。遮られた隔たれた境界には、無常感が漂う。しかし隔たりは、自分の位置をどちらかに動かすことで転ずることができる。自らに執着しなければ、いつでも違う方向から見る視点を得ることができる。己を転じることで、自らの死角にあった事象を見ることができる。これはアートが与える概念と共通し、気づきと自覚をもたらす。そして、この気づきと自覚は多くの混沌を解く鍵となる気がしてならない。震災より3年が経ち未だ癒えぬ傷を持つ魂が、自らを転じて新しい視点を得ることを祈って、このインスタレーションを展示した。

 

201304132213001 IMGP1366

渋響Ph:5「転」
天然ゴム風船約100個(クリア5インチ/透明ビー玉)
古襖枠/塩ビ板/照明器具
2013年4月13日14日/臨仙閣 望郷
撮影:ごとうなみ