開いているアート教室に通ってくださっている女の子から誕生日プレゼントに頂いた人形の佇まいから、温かな気持ちが溢れてくる。今年の誕生日には、目に見えない、とても大切なものを幾つかプレゼントされた。そのうちのひとつは、まるでおとぎのお話のようだけど、本当に起こったこと。今思い返しても、あれは笑っちゃうくらい奇跡だし、そしてとても幸せな気持ちになる。

 わたしは車を森の中に停めて、いつもは時間まで本を読んでいるのだけれど、その日は眠たくてうつらうつらと寝入っていた。しばらく経った頃ふと、ギターの音がする。水中を垂直の姿勢のまま音も無く落ちていく、まるで映画のワンシーンのように意識が夢に浸かった頭の中にも「えっ?…ギター?」と不可思議で、あっという間に現実世界に目覚めてみたら、ちょうどわたしの車の真横をジャラーンジャラーンと特に何か曲を弾くでもなく、和音を森の中に放出するように、そしてその音が木々の隙間に反射するのを楽しんでいるように、ギターを鳴らして歩く男の人があった。「あ、本当にギター弾いている人がいる…」。寝ぼけた頭でボケーっとその男の人が歩いて行くのを、肩肘をついて、上半身を持ち上げて車窓から眺めた。音が、木々に響いて、綺麗。だんだんと遠くなって、音も、消えそうになる。わたしはもう一度車のシートに身を横たえて目をつぶった。「ミュージシャンか…」と思った矢先「あ!」と閃いた。「そうだハッピーバースデイの歌唄ってもらおう!」。そして車のエンジンをまわして歩いて行った男の人を追って、歩いている彼の横にゆっくり車を停めた。助手席の窓を開け「あのー…すみません。わたし今日誕生日なんです。もしよかったら、ハッピーバースデイの歌、唄ってもらえませんか?」ときいてみた。するとその男の人はなにひとつ嫌な顔をせず「あ、いいですよ〜」と微笑んで、さっそくチューニングを始めた。そして一瞬ハッピー…と歌い出してから止めて「お名前は?」と聞いてくれた。わたしは「なみです」と答えた。それから彼は広い森の中に優しく響く声で、ギターとともに唄ってくれた。ちゃんと「ハッピーバースデイ〜な〜みさ〜ん」と名前つきで。パチパチパチ…。そして歌い終わった後「おめでとうございまーす」とにっこり微笑んで、祝福してくれた。わたしは、もう、とっても嬉しくって精一杯の感謝の気持ちを込めてありがとうとお礼を言って車をゆっくり発進させた。
 わたしはこの森を月に何度も訪れ同じ場所に車を停めているけれど、車や自転車に乗る人以外見たことがない。それなのに、わざわざわたしの誕生日に、しかもギターを鳴らしながら歩いてくる人がいるなんて。彼は一体どこからきてどこへ行こうとしていたんだろう。これを奇跡じゃないとしたらなんて呼べばいい? わたしはどの宗教にも属していないけど、神様ありがとうって心の中でお辞儀をした。素敵な奇跡。唄をきいている時、写真を撮ろうかなと思ったけれどやめて、まぶたに残すだけにしようと思いなおした。いつかは忘れちゃうかもしれないけれど、まだ残像は笑顔で唄っている。