Shibu-kyo Ph:4 / 2012

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「風呂」

2012年の正月、私はこども達を連れて渋温泉に一泊した。仕事以外で家族を旅館に連れてきたのはこれが初めてだ。夕食を頂き食後の時間を外湯巡りに費やしながらそれぞれの湯に浸かっているうちに、温泉場の持つ浄化作用にはたと気づいた。まるで湯が慈愛に満ちている。「何人もまずは自分の傷を癒されよ。そして湯に浸かり、身を浄化されよ。自身の正しい立ち位置へ戻り、またここから始められよ。」と、はっきりとした声が聞こえたわけではないが、このような内容の言葉を得た気がする。
  震災復興、放射能問題、未だ繰り返し起こる余震。私達が不安とともに一年間自問自答を繰り返した心は疲弊していたように感じられたし、暗雲と希望をうたう情報過多の日々は、癒しを求めているのではないか。そもそも渋響は温泉チルアウトというコンセプトのもと展開している。2回目のインスタレーションは「風呂」に着目した。風呂は自らを浄め、緊張を解きほぐし、身体に浮力を与え、心体が健常に返る力を促す。正月の家族旅行での気づきをまろやかに表現するため、会場を2階2箇所の風呂を選び、そのうちの一つをハートの形をした風船で埋めた。廊下を挟んで左右に隣接された二つの風呂には「浄化と慈愛」の意図を含ませた。


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渋響Ph:4「風呂」
天然ゴム風船約400個(クリア9インチ、11インチ、ホワイト9インチ、パールホワイト11インチ、ハートアソート100個)
2012年3月24日25日/臨仙閣 百二十万石
撮影 平松マキ