「わたしたちはみな、ある程度までは、ゲニウス、すなわち、わたしたちのなかにあってわたしたちと属していないものと折り合いをつけている。各人がゲニウスから離れ、ゲニウスから逃れようとする方法が、その人の性格である。それは、ゲニウスが、避けられ、無表情のままにされているために、《私》の顔に刻む渋面である。ある作家の文体は、しかしながら、あらゆる被造物の恩恵がそうであるように、彼の才能(ゲニウス)よりもむしろ、彼のなかにあって才能を欠いているものに、つまりは彼の性格にかかっている。このために、わたしたちが誰かを愛するとき、じつは、彼の才能を愛しているのでもなければ彼の性格を愛しているのでもない(いわんや、彼の《私》を愛しているのではない)。彼がその両方から逃れるのに持っている特別な方法、才能と性格とのあいだのすばやい往復を愛しているのである。(たとえば、ナポリであの詩人がこっそりとアイスクリームを飲みこむときの少年のような優雅さ、あるいは、話しながら部屋を歩きまわり、突然立ち止まって遠い天井の一角をじっと見つめるあの哲学者のだらっとした歩き方)。」
「ゲニウス」瀆神/ジョルジョ・アガンペン著
「Quintet 5つ星の作家たち」室井久美子/絵画