嗚咽を漏らしていた。心中の深淵に潜んだ、あたたかな記憶と、喪失したままにしたかった感情が、たった数日前に知り合った男の声に呼び覚まされ、もう、肩を震わせひゃくりあげている。オートマチックに灯る電子蝋燭の揺らぎ。ガブリエルの悪戯でも触れなかった手が、間を、開ける、声音から、私を通過して、私に到達する。柘榴の花弁は脳裏に映っている。そして、それでも、私は、今とあの頃ではまるで違う枕の涙を嗅ぐ。